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最近の気に掛かる記事: ニューズウイーク日本版 石野シャハラン

<海外報道は本当に「自分に関係ない」ニュースなのか。強まるメディアと国民の内向き志向は、国を滅ぼしかねない>

まだネットやスマホが現在のように普及していなかった頃のこと。私はプリペイドカードを購入しては、日本からイランにいる母やノルウェーに住む従姉妹(いとこ)などに電話していた。頻繁に話題に上ったのはそのとき世界で起こっている出来事だ。だが私はいつも「そのニュースは知らない、日本のメディアでは流れていない」と言って、あきれられていた。私だけが別世界に住んでいるようだった。

その頃に比べて今は良い時代になった。無料通話アプリにはニュース欄があるし、グループを作って世界中の情報を交換することもできる。英語はもちろんのこと、私の母国語であるペルシャ語でもニュースを得ることができる。だからもう以前のように母親や親戚に「そのニュースは知らない」と言わなくて済むようになった。

しかし、日本のメディアで流れる海外のニュースは古いと感じることが多い。大抵は既に数日前にペルシャ語で流れたニュースである。また日本のニュースは遅いだけでなく、海外情勢が矮小化されているようにも感じる。アフガニスタン情勢について、多くの国のニュース番組はほとんどの時間を割いて報道しているというのに、日本のテレビメディアではまるで扱いが異なる。

新型コロナウイルスの感染状況がトップニュースになるのは仕方ない。それでも、CNNのアフガニスタンの現地報道から日本のチャンネルに替えると、ペットのかわいい動画や、街角の交通事故の映像(大抵中国なのはどうしてだろう)があふれていて、あまりの落差に啞然とする。日本は世界とは切り離されたパラレルワールドに存在しているかのようだ。

メディアには日本礼賛の情報ばかり

アフガニスタンで活動していた中村哲医師が亡くなったときは、もっと時間を割いて報道していたと記憶している。今回は多くのアフガニスタン人の日本大使館職員らが同国に取り残されているというのに、命の重さが異なるのかと思うくらい、扱いは小さい。情報を集めて分析し報道するより、当たり障りのない形骸化したニュースに逃げていると言わざるを得ない。

逆にメディアが扱うことが増えたのは、日本がいかに海外で称賛されているか、という話題だ。日本の100円ショップが素晴らしい、トイレが素晴らしい、和食が大ウケだ、など、皆さんも日常的に見ているだろう。オリンピック・パラリンピックで来日した選手や報道関係者が、選手村やコンビニの食事を絶賛している、という記事がその最新版だ。果たして、このような話を真に受ける日本人がいるのか、私には大いに疑問だ。

しかし残念ながらこの手の話題を喜んで読む人が多いから、似通った話がいくつもニュースになるのだろう。皆さんも何だか変だと思うはずだ。五輪に際して報道されるべきは、日本はコンビニのサンドイッチが素晴らしい! 外国人記者たちが大絶賛! というニュースなのだろうか? 

日本人の世界観は随分小さくなってしまって、知的好奇心のレベルも下がってしまったのかと思うと、暗たんたる気持ちになる。こう言うと必ず、日本のことが大事で何が悪いのか、と言う人がいる。しかし世界は今やいや応なくつながってしまっている。自国のことさえ知っていればいいという時代はとうの昔に終わった。それは、金融危機、気候変動による天災の多発、そしてコロナの蔓延を見ても明らかだろう。

私は日本が大好きだからあえて言うが、ますます進む日本の内向き志向は国を滅ぼしかねない。自分には一見何の関係もない遠い国での事件や事故、紛争や感染症は、ある日あなたの生活を180度変えてしまうかもしれない。時には気楽な話題もいいが、世界情勢にアンテナを張っておくことは、あなたの損にはならないはずだ。


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