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オーストラリアが原潜建造へ

 インド太平洋の中堅国オーストラリア(豪州)が米英両国の支援を受けて、原子力潜水艦(原潜)を8隻建造し、保有することになった。実現すれば、核兵器を保有する米、英、中国、ロシア、フランス、インドに次ぐ7番目の原潜保有国となり、核兵器を保有しない国としては世界初だ

バイデン米大統領は15日、米英豪3カ国の新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」の創設を公表し、最初の取り組みが米国による豪州への原潜技術の供与になることを明らかにした。  またバイデン大統領は「21世紀における脅威に立ち向かう能力を高め、最新のものにする」と述べ、台頭する中国を念頭に、人工知能、サイバー、量子テクノロジーなど最新分野でも連携することを強調した。AUKUSは軍事色が濃厚な枠組みとなる。  豪州は第一次世界大戦以降、常に米国や英国の側に立ち、アフガニスタン攻撃やイラク戦争にも参戦してきた米英の古い同盟国だ。情報機関が傍受した他国の通信情報を共有する「ファイブ・アイズ」(米、英、豪、カナダ、ニュージーランド)の一員でもある。  とはいえ、原潜保有国にとって原潜の建造技術は秘密中の秘密。1958年に米国が英国にその技術を提供して以来となる。  原潜は、通常動力型潜水艦がディーゼルエンジンと蓄電池を推進方式として併用するのに対し、核分裂による熱エネルギーでスクリューを回す。蓄電池の充電にディーゼルエンジンを回すため酸素を必要とする通常動力型と比べて、潜水時間が圧倒的に長く、隠密行動が求められる潜水艦にとって最適な構造となっている。

核兵器保有につながるのではないか

バイデン大統領は、豪州への原潜技術の供与について「豪州の潜水艦がより長期にわたって展開できるようになる。より静かで、より能力が高い。これにより、インド太平洋における抑止力を維持、向上させることができる」と述べ、海洋進出を進める中国を牽制した。  核兵器保有国はいずれも原潜が持つ隠密性を生かして、戦略ミサイル搭載原潜(SSBN)と呼ばれる核ミサイルを搭載したタイプの原潜を運用する。当然ながら、豪州の原潜保有は核兵器保有につながるのではないかとの懸念が浮上する。  豪州は米、英、中国、ロシア、フランスの5カ国を核兵器国と定め、それ以外の国への核兵器の保有を禁止する核兵器不拡散条約(NPT)の加盟国だが、今年1月に発効した核兵器禁止条約には加盟していない。  豪州のモリソン首相は15日の会見で「はっきりさせておきたいのは、豪州が核兵器の獲得や核戦力の確立を目指しているわけではないということだ。われわれは核不拡散の義務をすべて果たし続ける」と述べて、懸念の払拭に努めた。  モリソン政権は南部の都市アデレートで原潜を建造する計画だ。豪州には原子力艦船を建造できる造船所が存在せず、原潜の建造と維持には巨額の費用とインフラ整備への投資が必要になる。  これを支援するため、米国は豪州との間で18カ月の協議期間を設け、労働力、生産スケジュール、核不拡散対策などあらゆる要素を決定することにしている。

その裏で、憤慨しているフランス

「豪州が原潜保有へ」という世界を仰天させるニュースの裏で、歯ぎしりしている国がある。フランスだ。  もともと豪州は老朽化した通常動力型のコリンズ級潜水艦の代替艦として通常動力型潜水艦の新規建造を決め、2016年にフランス企業のDCNS(現ナバル・グループ)と契約した。受注総額は500億豪ドル(約4兆円)に上り、豪州にとって史上最高額の軍事プロジェクトとなった。  このとき日本政府は安倍晋三政権下で武器輸出を禁じた「武器輸出三原則」を見直し、「防衛装備移転三原則」という名称で武器輸出を解禁したこともあって、フランス、潜水艦大国のドイツとともに受注競争に参加した。  豪州の求めていた代替艦が海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦に最も近かったことから採用が有力視され、製造元の三菱重工業、川崎重工業が売り込みを図ったが、親日家とされたアボット首相の退陣や企業側の本気度などが問われ、フランスに破れた。  フランスが計画した豪州の次期潜水艦は、フランス海軍最新鋭のバラクーダ級原潜を通常動力型に変更。アタック級潜水艦と命名され、2030年代から50年までに合計12隻が納入される予定だった。

フランスからアメリカに乗り換えた理由

ところが、問題が続出した。  まずは費用面だ。豪州会計検査院によると、500億豪ドル(約4兆億円)と見込まれた受注額は、2019年に800億豪ドル(約6兆4000億円)に急上昇し、昨年7月には897億豪ドル(約7兆2000億円)に更新された。  維持費を含めると2080年までに1450億豪ドル(約11兆6000億円)の負担が必要になると見積もられた。この金額は、国防費の3倍以上にもなる。  さらに建造開始が遅れ、このままではコリンズ級がすべて退役し、潜水艦が1隻もない状況になるという問題が浮上。フランスが受注した要因のひとつである現地生産による地元雇用も進んでいない。結局、三重苦に見舞われ、今年1月には豪州メディアが「政府がフランスとの契約キャンセルを検討している」と報道した。  今回、豪州が米国の技術供与による原潜建造を決めたことでフランスとの契約は破棄される。  ロイター通信によると、ルドリアン仏外相はラジオ番組に出演し、「これは一方的で、予測不能なひどい決定だ。トランプ前米大統領のやり方を思わせる。信義に反するもので非常に腹立たしい」と語ったという。  価格を急上昇させたうえ、受注時の条件をあやふやにしておきながら、何を今更という感がなくもないが、フランスにとって今世紀最大のもうけ話が消えたのだから怒るのも無理はない。  豪州は新造が予定されたアタック級潜水艦の戦闘システムや魚雷などの武器類について米国製とすることを決めていた。受注を狙っていたのは世界最大の米軍需産業ロッキード・マーチンや米大手のレイセオンだ。  米政府は潜水艦に搭載する最新鋭の戦闘システムがフランスの潜水艦に搭載されることに懸念を抱いていたとされ、今回の原潜技術の供与につながった可能性がある。潜水艦の本体ごと米国が受注すれば、秘密漏洩の不安は消えるからだ。

もっとも打撃を受けるのは中国だ

米国は南シナ海の環礁を埋め立てて軍事基地化を進める中国に対して、米海軍の艦艇を差し向ける「航行の自由作戦」を展開している。中国軍から自国艦艇を守り、中国海軍のSSBNを追尾する必要性から、常に南シナ海の海中に攻撃原潜を潜ませている。  豪州が自国の原潜を運用するようになれば、役割を分け合うことになり米国の負担は軽減される。この点も原潜技術の供与の背景にあるのだろう。  豪州と中国との関係は、昨年4月、豪州が新型コロナウイルスの発生源を巡って中国での国際調査を求めたことから悪化した。対抗措置として中国は、豪州産大麦に制裁関税をかけたのを皮切りに石炭などの輸入を制限して事実上の制裁を科した。  すると豪州は昨年11月インド洋であった中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に水を指す狙いの日米印3カ国の共同訓練「マラバール」に初めて参加し、中国と対抗する姿勢を鮮明にした。  海上自衛隊は護衛艦2隻から3隻による「インド太平洋方面派遣訓練部隊」を毎年編成し、2カ月前後わたって南シナ海とインド洋に送り込んでいる。空母「クイーン・エリザベス」を中心とする空母打撃群をインド太平洋へ派遣中の英国は、駆逐艦2隻の常時派遣を表明、域内国や域外国による中国包囲網が築かれつつある。  豪州の原潜保有により、もっとも影響を受けるのは、海洋における行動の自由を制約される中国であることは間違いない。


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