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50代以上の社員に投資する企業はわずか6%

最近の気に掛かる記事:東洋経済オンライン 郡山 史郎 : CEAFOM代表

今年9月9日、サントリーホールディングスの新浪剛史社長による発言で注目を集めた「45歳定年制」。働く側からすると恐ろしい発言で多くの物議を醸したが、これは決して非現実的な話ではない。いったい、なぜ企業側は45歳定年を望むのか? これまでに3000人以上の転職・再就職をサポートしてきた郡山史郎氏の新刊『定年格差』より一部抜粋・再構成してお届けする。

用となれば、非正規雇用者になるのは常だ。正社員に比べて、ぐっと給与が下がるのは当然だろう。それまであった定期昇給などなくなるし、役職手当などもゼロになる。

再雇用で「月給が10分の1」に

再雇用制度を実際に受け入れた人の話では、「労働時間は変わらないのに月給が10分の1になった」という声も聞く。実際に多いのは定年前の半分ほどがボリュームゾーンだという。まだ子どもが大学生くらいだったり、住宅ローンが残っている人は大問題となる。

加えて、再雇用の段階でモチベーションが大きく下がる人が急激に増える。役職がなくなることは給与が下がるだけではなく、権限もなくなるし、社内外でのプレゼンスを下げることにもつながるからだ。

「50代シンドローム」をご存じだろうか。一般社団法人定年後研究所が名付けたもので、50代を迎えるとビジネスパーソンの多くが、著しくモチベーションを低下させる現象を指す。

50代くらいになると、出世競争でトップ経営層のイス取りゲームからあぶれた人たちがほぼ明確になる。同時に、役職がなくなる役職定年や出向、あるいは後方支援といっていいようなネガティブな配置転換も起こり得る。

ただでさえ、年をとると環境の変化に柔軟に対応できなくなる。「ランチはいつも同じ店で同じメニューを食べる」とか、「洋服はいつも同じ店で同じ店員から買う」とか、年齢が上の人ほど冒険をしなくなり、ブランドチェンジをしなくなるのはそのためだ。

そのような精神状態の50代が、仕事環境をガラリと変えられ、しかも世間的には格下げの様相を呈すのは、プライドが高い人ほどきつく、つらいわけだ。

それまで「課長」「部長」と呼ばれていた立場が、突然平社員になり「さん」づけだけになる。フラットな組織が当たり前になりつつあるとはいえ、今はまだ違和感と戸惑いを覚える人も少なくないだろう。

これは労働者個人だけの問題ではない。今現在、退職を前に配置転換などの真っ只中で、まさに50代シンドローム状態に陥っている人といえば、1986〜1991年のバブル期に入社したバブル世代(1965〜1970年頃生まれ)に当たる。

当時の好景気にかまけて大量に雇用され、また年功序列が残っていた頃に入った彼らは、今や会社にいる最も大きなボリュームゾーンで、給与もプライドも高い世代だ。このボリュームゾーンがやる気をなくして生産性を下げたら、各企業にも、社会にとっても大きな損失と言えそうだ。

だから国は、そもそも55歳定年だったところを、2013年の改正高年齢者雇用安定法で60歳までに延長し、さらに65歳までの再雇用という道筋を立てた。しかし、政府が思うほど、この制度は美しくまわっていない。それぞれの現場で、給与とモチベーション・ダウンに苛まれたままの人が多いのだ。

そんな状況で施行されたのが、2021年の改正高年齢者雇用安定法。「70歳定年法」というわけだ。

人件費の抑制、待ったなし

2021年の改正は、簡単に言えばこれまでの定年を5歳上にそのままスライドさせたものだ。【2021年・改正高年齢者雇用安定法の骨子】
次の1〜5のうち、企業はいずれかの措置を講じるよう努める必要がある。

1.定年を70歳に引き上げ
2.70歳まで継続雇用する制度の導入
3.定年制の廃止
4.70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
5.70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入

改正のポイントをかいつまんで説明する。

まずは1〜3はこれまでの改正高年齢者雇用安定法の「65歳までの雇用確保措置」を70歳へとそのまま引き上げただけと言える。これまで同様、「70歳まで継続雇用」を選ぶ企業が大半になると予想される。

70歳まで定年を引き延ばしたり、定年制を廃止するなどしたら、ただでさえ追い出したい高給取りで伸びしろを期待できないシニア社員を長く残すことになる。それでは厳しい企業間競争に勝てないからだ。

やはり形式定年に当たる60歳(定年60歳は改正法でも変わらない)で解雇、再契約によってぐっと給与を下げるという、人件費の抑制の方向に力が向くのは当然だ。

むしろ今回の改正で、その力はうんと強まるに違いない。それは次に続く4と5の項目「業務委託契約」を盛り込んだことからもうかがえる。

「4.業務委託契約」はもはや雇用ではない。これまで務めていた会社からフリーランスとなって、仕事だけを受注する形になるということだ。

「5.社会貢献事業への従事」も同様だ。「事業主自らが実施する」か「事業主が委託、出資(資金提供)などをする団体がおこなう」社会貢献事業への転籍を意味する。やはり会社の雇用からは外れるわけだ。

実は本項目は、これまでの高年齢者雇用安定法のなかでも、「65歳までの雇用確保措置」と銘打ってきた。しかし、今回はその名を「70歳までの就業機会確保」と変えている。「雇用確保」ではなく「就業機会確保」なのだ。

この2つに関しては、会社にとっては給料の支給がなくなるうえ、労働管理のコストもなくなる。さらには社会保険のコストもなくなるので、いかにも魅力的な選択肢だ。

労働者にとって「収入が下がる」ことは確実

労働者から見たらどうか?

まず業務委託契約のメリットはそれなりにある。完全に裁量制になるから自分のペースで仕事ができるし、仕事によっては、やればやるだけ収入が増える可能性だってある。

しかし、フリーランスだから厚生年金や健康保険といった会社の社会保険の枠組みからは外されてしまう。繁閑によって売り上げ・利益が変わるなど、会社員時代とは大違いの不安定さを味わうことにもなるだろう。少なくともこれまで会社のために尽くしてきた真面目で保守的なシニア社員ほど、この現実はこたえる。

社会貢献事業の従事も、これまでの仕事からガラリと様相が変わること、収入が下がることは確実だ。変わりたくない人ほど、厳しい道に映るだろう。

もっとも「4.業務委託契約」も「5.社会貢献事業」も労働組合からの過半数の同意などがないと導入できないルールになっている。実際に、これらを導入する会社は極めて少ないだろう。しかし、あえてこの2つを用意した国のメッセージは重い。

この「改正高年齢者雇用安定法」が伝えるメッセージは、これまでの終身雇用や年功序列を前提としたような、個人と会社の主従型の雇用関係からの脱却だ。

首相官邸のホームページには、「人生100年時代を迎え、元気で意欲ある高齢者の方々に、その経験や知恵を社会で発揮していただけるよう」と、この法律の改正に先立って実施された「未来投資会議」の議事録が残っている。

会社での雇用にこだわるのではなく、シニアの力を、社会に広く還元する。大きな価値観のシフトを促しているというわけだ。

とても美しいし、正しい道筋だ。元気なシニアは増え、社会に貢献したい人も多い。しかし、企業はこのメッセージをどう受け止めるだろうか。断言しよう。ノーだ。額面通りに従わないだろう。繰り返しになるが、企業は売り上げ・利益を上げ続け、ステークホルダーの期待に応えることが至上命題だ。できるだけシニア世代に活躍してほしいと本気で思っているとは思えない。そんな時間と金があるならば、若い世代に投資したいのが本音だ。

企業による「中高年社員」切り捨ては加速する

こんなデータからも見て取れる。定年後研究所が2019年に実施した調査によると、「モチベーションアップ、創造性開発、自己発見、自己啓発などに資する研修」を実施していると解答した企業は48.1%にのぼるという。

しかし、そうした研修を「50代以上の社員を対象に実施している」のはわずか6%に過ぎなかった。ほとんどが「男性の新人・若手・幹部候補社員を対象に実施している」(42.8%)のだ。

企業はシニア社員に期待も投資もしていない。その状況で、国が「70歳まで働かせる環境をつくれ」と企業に丸投げしてきた。ただし「自社で雇用しなくてもいい」と逃げ道もにおわせている。

企業は必ずこう思うだろう。

「早めに中高年社員を追い出そう」

生物学的に心身が衰える自然定年の45歳はいつの時代も変わらない。これが定年55歳だったなら、45歳の社員に対して「会社に貢献してくれたし、あと10年は役に立たなくてもいてもらおう」と考えられた。余裕もあった。

けれど、余裕がなくなった今の日本企業が「70歳まで働かせろだって? あと25年も体力、知力の落ちた社員を置いていられない!」と考えるのは極めて自然なことだ。

企業は意識的に追い出しのために努力をはじめるに違いない。早期退職制度は目に見えて増えるはずだ。

『定年格差』(青春出版社)

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