2015年5月9日、IIS第2回講演が明治大学紫紺館にて行われました。今回は「日本創生:アベノミクスの課題と可能性」というテーマで、政策研究大学院大学客員教授であり日本経済研究センター参与の小島明氏を講師として迎え、日本が世界からどのように見られており、今後の世界の中で日本はどうあるべきかについて講演していただきました。
講演では、現在の日本をしっかりと見なければならず、長い時間軸の中で今の日本を考えることが重要とし、自画像と現実の乖離を貯蓄率、輸出依存度、電子産業、国内市場、グローバル化などの面から実例を挙げ説明してくださいました。自己イメージとしての日本は、高貯蓄率、輸出大国、輸出御三家「電子産業」、大きな国内市場、グローバル化の日本ですが、現実は全て逆の結果となっています。日本はその乖離を知り、今の日本について考える必要があるとのご指摘でした。このような情報を提示後、世界が日本をどのように見ているかについてお話くださいました。
戦後の経済成長を機に様々な文献やレポートなどに日本がとりあげられてきましたが、近年ではそれらの対象から外される傾向になっているとのことでした。現在の安倍政権の成長戦略の柱の一つの企業ガバナンスについても言及されました。実際に経済を動かしているのは企業であるが、日本の企業は資金を回すのではなく留保する傾向が強く、なかなか投資をしない消極的な経営がなされているとのことです。さらに銀行はお金を貸さないという状況が続いているという現実もあり、このような経済状況を資本主義経済と言えるのだろうかと疑問を提示されました。さらに、このような状況をIMFは日本の企業は活動していないという評価もあるとのことです。このような現状をどのように打開できるかが重要な課題となるでしょう。そしてそれは経済面だけでなく、様々な側面からの見直しも必要であります。例えば、担い手であるグローバル人材強化や世界高水準のIT社会実現などがあります。
現在日本でよく謳われている「イノベーション」の意味は新しい技術だけではなく、その技術を含むすべてのプロセスを含んだ意味であるゆえ、新技術を活かせる諸制度の在り方も含まれることになります。小島氏は「現在は世界経済・産業技術パラダイムの大転換期であり、日本は『失われた××年』と失った年を数えている暇はない。改革の深化、スピードアップが急務。『残された時間』こそ重視すべき。」と仰せです。さらに、これからは企業の改革だけではなく行政の政策の改革も同時に行う必要があるとのことです。
今回の講義を受け、講義後活発な質疑応答の時間が設けられました。いろいろな質問の中で、AIIB問題に日本はどのような姿勢でいるべきかという質問がありました。小島氏の答えは「時代が変わったという時代感を持つことが重要。話合いの中に入って議論に加わっていけばよいのではないか。オリジナルメンバーに入ることも重要。入らないのは戦術であって、戦略がない」とのことでした。この返答を聞き、自分は日本を自己イメージによって見ていたことに気づかされました。時代感のない視点で見ていたと反省したと共に新しい視点を発見した気持ちになりました。グローバル化の進む現代において物事を多角的に捉えた上で、社会システムの全体を想像し一方向のみでなく全体的に物事を見る目が必要不可欠であると強く感じました。
(文責:斎藤和恵)