今回の講演は、講師に東京財団政策研究ディレクターの渡部恒雄氏をお招きし、「オバマ大統領のレガシー外交と日本の戦略」のテーマで行なっていただきました。
渡部恒雄氏は東北大学歯学部を卒業後歯科医師となり、医療活動に携わりながら社会科学研究への情熱を燃やし続け、外交・安全保障、米国の政治経済、日米中関係等の分野で活躍されてきた異色の専門家です。米国ニュースクール大学で政治学修士の学位を取得後、戦略国際問題研究所(CSIS)、三井物産戦略研究所、東京財団等で活躍等、数々の業績を残されてきています。
講演会では「オバマ大統領のレガシー外交と日本の戦略」と題して、現代世界の政治経済関係、日米中関係、安保法制とシビリアン・コントロール等について幅広く語っていただきました。
バラク・オバマ氏が米国初のアフリカ系大統領として第44代大統領に就任したのは2009年の1月20日のことでした。アメリカ市民の多くは、若く、躍動するオバマ氏の姿にかつてのケネディ大統領の栄光を重ねて見ていたと思われます。リーマン・ショックで揺れる当時のアメリカ社会と世界経済の危機的状況から同氏が一種の救世主に見立てられ、大統領就任式には全米各地から200万を超える人々が首都ワシントンに集まったのも記憶に新しいところです。
しかし、冷戦後の世界経済と国際関係は複雑で、政治秩序と経済構造の激変の中でオバマ氏の掲げる改革路線(核廃絶・中東和平、医療制度改革等)は各種の障害に会い、途中で色褪せ、今ではレガシー(遺産)外交に注目が集まる状況となっています。
核軍縮・核廃絶への努力も道半ば、イランとの核協議をめぐる湾岸諸国との軋轢、イスラム国(IS)の台頭で揺れる中東・アフリカの荒廃、未曾有の難民の欧州流出、北朝鮮の軍事挑発と核脅迫、中国の海洋進出と軍事大国化等はオバマ大統領の想いを大きく超えたところで動いてきたようにも感じられます。これらの出来事は、いわば、冷戦後世界の政治経済構造の転換とグローバル化の加速が生み出した結果であり、昨今の中国株価暴落問題を含め個々の政策対応では解決できない構造的側面を含んでいます。
アベノミクスや安保法制等、安倍政権が試みようとしている戦後日本の政策転換もこうした世界的な構造変化の中にあり、政権はこうした事態を正確に見極め、日本をどのような国にするのか、その基本的性格と将来像を国民に明らかにしなくてはなりません。その意味では、国会審議の渦中にある安保法制問題は単なる法令や条文の改正ではなく、将来の国づくり、民主主義と市民社会の根幹に関わる問題として扱われるべきです。シビリアン・コントロールを「文民統制」でなく、「文官統制」とする言葉のやり取りどう考えるべきか、みんなで考えなくてはなりません。渡部先生は最近のTV討論の中でもこうした点を指摘され、国民のさらなる知的努力を促されています。
第4回講演会
日 時 : 2015年9月12日 (土) 14:00〜17:00
テーマ : 「オバマ大統領のレガシー外交と日本の戦略」
講 師: 渡部恒雄氏
(東京財団政策研究ディレクター(外交・安全保障担当)兼上席研究員
場 所 : 明治大学 紫紺館 S4会議室