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2019年度第2回、令和2つ目の講演会は講師にモンゴル国から新モンゴル学園理事長、ジャンチブ・ガルバドラッハ先生をお招きし、「モンゴルの大地に日本の風をー新モンゴル学園の誕生」という題目でご講演をいただきました。
新モンゴル学園は、「知識と技術と能力を兼ね備えた人材、すなわち国家の将来を背負っていくリーダーの養成」を基本理念とし、幾多の人材を育成、当インスティチュートの活動にも多大の貢献をしてくれているユニークな学園です。

同学園の理事長ジャンチブ・ガルバドラッハ先生は、山形大学(教育学修士)と東北大学(博士課程満期退学)で学ばれ、山形県や宮城県の日本人有志の支援(柱一本の会)により2000年10月にモンゴル初の日本式高等学校である「新モンゴル高校」を設立しました。高校において行われた日本式教育のあり方がモンゴルで話題になり、また卒業生たちの実績及び活躍により新モンゴル高校は瞬く間にモンゴルのトップ私立学校の一つとして認められるに至りました。その背景にはガルバドラッハ先生の行動力や人柄により、生徒のために多くの奨学金を海外で得ることに成功しており、全卒業生のうち概ね3割にあたる約400名の生徒を海外の大学に留学させています。さらに、ガルバドラッハ先生の夢は高校に留まりません。新モンゴル高校の延長として、「新モンゴル工科大学」と「新モンゴル高等専門学校」を設立し、2014年に新モンゴル学園を発足させました。

新モンゴル学園の持つ最大の特徴の一つは、ガルバドラッハ理事長だけでなく、新モンゴル高校校長、新モンゴル高等専門学校校長、新モンゴル工科大学学長のそれぞれ全員が日本留学経験者であるということです。モンゴルの教育に日本の教育や教育システム、出身校がモデルになっていることは嬉しいことです。
今回の講演を通して、ガルバドラッハ先生自らが日本で受けた教育を、全く違った環境のモンゴルでどのように生かし発展させていったのか、詳しくお話しいただければと考えました。

講演では、ガルバドラッハ先生の日本留学の苦学生時代から新モンゴル高校の設立、新モンゴル高等専門学校、新モンゴル工科大学の開校、新モンゴル子ども園の開園と、新モンゴル学園誕生迄の経緯を詳しく述べていただきました。
その中でガルバドラッハ先生には日本から10の風が吹いたと説明いただきました。例えば、山形市民を中心とする「柱一本の会」が学校設立資金のバックアップしてくれたこと。2000年10月にモンゴルでは初の三年制日本式高校を開校したこと(同校では制服の着用を義務付け、給食を支給し、部活動を取り入れた)。モンゴルにおいては全日制の学校は無かったので、給食も部活の概念も無く、また三年制という学年制もモンゴルの教育改革の模範となったこと。日本留学を支援してくれるスポンサーと出会ったこと。多くの大学と学術連携を結んだこと。小中一貫学校というモンゴルの公立学校の経営改革モデルにもなっていること。そして実績を出し飛躍している卒業生たち(ガルバドラッハ先生は生徒たちに「君の夢は僕の夢」と言っているそうです)。

私は講演会前までは、日本の教育制度の良いところをモンゴルに取り入れそれがモンゴル社会で受け入れられた、そして途上国であるがゆえの成功例だと思っていました。しかしながら、10の風は吹いたのではなく、ガルバドラッハ先生が吹かせたものであり、ガルバドラッハ先生だからこそ成し遂げられたことなんだと改めて感じました。苦学生時代の新聞配達、ガルバドラッハ先生はバスケットボール選手であったので練習のランニングだと思えば苦にならない、深夜にまで及んだ飲食店でのボーイ、こちらも日本語の勉強だと思えば苦にならなかったというポジティブシンキング。一つにはこのポジティブシンキングが大きな鍵かと思います。二つ目に高校入学時には生徒に夢・目標を必ず抱かせる教育。新モンゴルから来た学生は確かに明確に夢が言えました。そして、三つ目として同僚教員へのガルバドラッハ先生の考え方の刷り込み。教育は一人ではできませんから、ガルバドラッハ先生の考えを周りの先生方にも徹底して刷り込む。これらがあるからこそ、新モンゴル学園は誕生したのだと思いました。いじめ、不登校がはびこる日本の教育現場。マネジメントが上手くいかない企業社会。ガルバドラッハ先生の教育メソッドは、逆にモンゴルから日本への風とならなければならないと強く感じました。

ガルバドラッハ先生はこのように述べています。
僕は「国づくりは人づくり」だと考えている。「人づくりは質の良い教育があってこそできる」のである。「質の良い教育」というのは大学進学のための教育ではなく、「人物を育てる教育」のことである。人間性が優れている人物を養成したい。世の中をよくしたいう心を持ち、他人のために自分を尽くせる人間性が必要だと僕は考えている。
飛び級制度をどう考えているか?という質問に対して、本校にも飛びぬけて出来る子はいるけれども、同時に人が成熟しているか?と問われれば答えはNoである。人づくりには時間と環境が必要である。”だから本学では飛び級制度はない”と回答したガルバドラッハ先生の言葉は印象的であった。


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